新型コロナウィルスについて

最近の話題ですが、新型コロナウィルスによる感染が世界中で問題になっています。未知のウィルスですが、関係各所からこれに対するガイド等がリリースされています。あくまでも現時点でのガイドですが、当院所属の学会からのガイドを引用し、以下に示します。

 

令和2年3月11日

日本臨床歯周病学会学会未来委員会

日本臨床歯周病学会所属歯科医院における 新型コロナウイルス感染症対応ガイド

 

昨年暮れに中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染 症(COVID-19;Corona Virus Disease 2019)は 3 月 11 日現 在世界100カ国以上に広がり感染者は10万人を超えました。 日本においても感染者は千人を超えています。本邦において は指定感染症に指定され、WHO からは史上 6 度目の緊急事態 宣言まで出されています。また、米国疾病管理予防センター (CDC)の会見ではパンデミック(世界的大流行)と言う言 葉が出てきています。そのため学会に所属する全国どこの地 域の歯科医院でも感染者が来院する可能性が出てきました。 日本臨床歯周病学会(JACP)では上記の状況を踏まえて COVID-19が拡散した場合、学会員の歯科医療現場の混乱を防 ぎ、あるべき対応をして頂くために「日本臨床歯周病学会所 属歯科医院における新型コロナウイルス感染症対応ガイド」 を作成することになりました。 会員各位におかれましてはこのガイドを参考にして頂き、 COVID-19が終息するまで大過なく日々の診療が継続できる ことを願っています。 

 

このウイルス感染症の状況は対応する 国や医療機関側の変化(検査体制を含む)も含めて刻々変化 してきており、その対応も状況に応じて変化させてゆく必要 があります。このガイドは現時点におけるJACPが示した一つ の目安ですので、各医院の状況に応じてより具体的な対応手 順を決めて、実行して頂くことが肝要です。

 

 [新型コロナウイルスの特徴]

コロナウイルスと総称されるものは50種類以上が報告され ていますが、そのうち人間に感染するものは6種類だけでし た。新型コロナウイルスは人に感染するものとしては7番目 となり、重症の肺炎を起こすものとしては3種類目となりま した。このウイルスは直径100nmほどの球形のRNAウイルスで エンベロープ(外被膜)の表面にコロナ(王冠)に似たスパ イクタンパク(突起)があります。これはインフルエンザウ イルスと同様にエンベロープ(被膜)ウイルスで、膜は脂質 を主成分としているためアルコールなどの脂溶性のあるも ので破壊されるために、不活化することができます。つまり アルコール消毒(濃度70-80%程度)が有効です。

 

 [臨床所見と経過および感染力]

COVID-19は呼吸器系の感染が主体で、その症状は発熱、咳、 強い倦怠感、筋肉痛、呼吸困難などが多く、頭痛、喀痰、 下痢などを伴う場合も認められます。最初は普通の風邪症状 である微熱(37度台)、咽頭痛、咳などからはじまって、重 症化するかどうかの区別がつきにくいことが分かっていま す。重症化する場合は普通の風邪症状から5−7日で症状が 急速に悪化して肺炎や呼吸困難に至ります。感染が確認され た症状のある方の80%が軽傷、14%が重症、6%が重篤となって います。潜伏期間は武漢からの報告によると平均5.2日で 12.5日までに発症しているとの報告がありましたが、WHOか ら2/6に「最長14日間もありうる」との見解が示されていま す。また症状がない潜伏期間中にも感染力があることが分か っています。新型コロナウイルスの致死率はSARS(約10%)、 MERS(約34%)に比較して少なく2%程度ですが、インフルエン ザウイルス(約0.2%)よりは高値です。しかし、SARS、MERS に比較して重症化率は少ないものの感染力は強いという特 徴があります。 物に付着したこのウイルスの感染力がどのくらい維持され るのかの詳細は不明ですが、一般的に気温が低いところでの 生命力は伸びる傾向にあります。同じコロナウイルスのSARS とMERSウイルスの実験では表面滑沢な金属などで平均4−5 日で最長9日間も感染力があったとの報告があります。 一方インフルエンザウイルスの実験では水分を保持しやす い金属などで1-2日であり、水分を吸収しやすい衣類などで は数時間程度で生命力を失うといわれています。

 

 [治療薬]

日本において一部の喘息治療薬に治療効果があったとの報 告が数例ありますが、現時点で特効薬とワクチンは出来てい ません。

 

 [感染が疑われる場合の受診方法] 下記のいずれかに該当している場合は新型コロナウイルス に感染している疑いがあります。 1.風邪の症状や37.5度以上の熱が4日以上続く 2.強い倦怠感や息苦しさがある 3.下記の項目に該当して、風邪の症状や37.5度以上の熱、 強い倦怠感や息苦しさがあるが2日以上続く 高齢者、妊婦、基礎疾患がある人、透析・免疫抑制剤の治 療・抗がん剤治療を受けている方 上記のいずれかに該当する場合は自宅住所管轄の保健所に 連絡して指示を仰ぎます。 上記の条件を満たさず症状が悪化した場合は近隣の医療機 関を受診することになります。

 

 [感染対策]

 1.予防策の徹底

1)個人的予防策 手洗いの徹底;石鹸を泡立てて30秒から1分かけて手洗 いをしてからアルコール消毒(手の全面にす りこんで15秒) マスクの着用;BFE(3μmの粒子が濾過された率)95% 以上のマスク(医療用サージカルマスクはこの 基準を満たしている)を着用する。 ウイルス粒子は0.1μmのためマスクを通過して しまうが飛沫(咳やくしゃみでウイルスに水分 やほこりが付着した直径5μmの粒子)は防げ る。 免疫力を上げる;質の良い睡眠をとり自律神経の乱れ を最小限にして免疫力をアップさせておく。バラン スの良い食事を摂る。

2)診療室での予防策 診療室内での予防策は上記の個人的な予防策を行いつ つ飛沫感染予防と接触感染予防の徹底を行います。エア タービン、エンジン、口腔内バキュームなどの使用で エアロゾルが発生しやすい状況ですので、歯科医療ス タッフはマスク、ゴーグル、手袋の装着を徹底する必 要があります。診療で使用した機材は消毒用エタノー ルか0.02%次亜塩素酸ナトリウムや抗ウイルス作用のあ る薬剤を不織布などのクロスに含ませて清拭します。

2.外来患者さんへの対応 外来患者さんには入室時の手指消毒はもちろんのこと、こ れまで以上の問診の徹底を行うことが必要です。また体調の すぐれない患者さんが来院された場合は必要に応じて非接 触型体温計で検温を行い、状況によっては治療延期の提案を することも考慮すべきです。

3.院内の消毒 待合室のドアノブや電気のスイッチ、トイレ周囲、受付周 囲などで人が頻繁に触れそうなところは診療室内と同様に 消毒用エタノールか0.02%次亜塩素酸ナトリウムや抗ウイル ス作用のある薬剤を不織布などのクロスに含ませてなるべ く頻回に清拭する必要があります。

4.換気 北海道の感染報告から空気の停滞するところで感染の危 険性が特に高いので、院内、待合室の意識的換気を行う ことが必要です。

 

 [おわりに]

医療機関の中でも歯科医院での治療は、患者の口腔内を非 常に近い距離で直接覗き込むという意味では、感染リスクの 高い医療職種であると言えます。この感染リスクをできるだ け低くする努力を医院一丸となって行う必要があります。水 平感染を防ぐ努力はもちろんのこと、院内のメンバーに感染 者が発生した場合、医院の一時的な閉鎖を余儀なくされます。 歯周病という感染症を予防・治療できる我々であるからこそ、 他の歯科医院の模範となれるよう各予防項目を徹底して行 いつつ、COVID-19 の早期終息を願いたいと思います。

 

参考資料

1.厚生労働省ホームページ

2.医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応 ガイド第 1 版;一般社団法人日本環境感染症学会

3.寺嶋 毅,西脇俊二監修;新型コロナウイルス完全対策 BOOK,宝島社,東京,2020.

4 .河岡義裕,今井正樹監修;「ウイルス・感染症」にどう立 ち向かうのか,ミネルヴァ書房,京都,2018

 

以上です。

人類は現在まで多数の感染症を経験してきました。未知の脅威に対してはその都度、時として甚大な被害を被りながら、人類にとっての経験に置き換えてくる事が出来ました。同時に知識と経験の集積を科学とし、それに基づきながら医学は進歩し、私たちはこの時代まで生き延びてきましたが幸運だったのかも知れません。このパンデミックを乗り越える事が出来ると信じていますが、どこかに恐れを抱いているのは否めません。

身近なことから注意していくことしかできませんが、早期収束を期待して桜を眺めたいです。