歯科治療 テクニック

WALKMAN

WALKMAN

この商品は一体いつから販売されているのでしょうか。

調べました。1979年だそうです。(Wikiより)

1979~2018年、実に39年でした。高校時代から、今に至るまで使っています。途中ブランクが20年位ありましたが(使い続けているわけではありません。)、高校生の時と同じブランドで使ってる商品って他にあるかしら?文房具はいくつかありそうです。後はスポーツメーカーの商品。アシックス。プーマ。高校生の時はナイキって見かけませんでした。田舎だから?

今までWALKMANに入れていたのは以前持っていたCDの音源なんですが、最近は昔聞いた事のある邦楽を入れたりしてます。洋楽ばかりだったのですが、何となく増えてきました。沢田研二、山口百恵、大橋純子、八神純子、岩崎宏美etc。ジュリー以外はみんなベスト盤です。

歯科材料なんかは仕事を始めた頃と比べて随分変わったと思います。しかし、変わらないものもあります。

臨床術式がさほど変化のない治療に係るものは、昔からの製品になりますね。大体歯ブラシ自体が昔から変わってません。電動もありますが、基本普通の歯ブラシに大きな違いはありません。後は入れ歯や歯を削る際に使用するドリル。これも大きくは変わりません。麻酔薬、リドカイン製剤のキシロカイン系(欧米では新しいのが出てますが)も変わりません。

変わったものって?

最近だとMTA。デンタルインプラント(チタン、ルートフォーム)、再生療法(EMD、リグロス)、CBCT、Ni-Tiファイル。

結構ありました。

 

MTA

先日お問い合わせが有り、考えてみれば意外にもこのテーマは記事にしていない事に気が付きました。

歯科治療上この20年で最も重要な材料の一つと言っても良いかもしれません。

MTA(mineral trioxide aggregate)とは、約20年前にデンツプライ(歯科メーカー)から初めて販売された歯科用セメントです。研究はロマリンダ大学(アメリカ)において1990年代初頭より行われていました。

今迄の歯科用セメントと比較して、極めて高い生体親和性を持っています。

現在の使用用途としては、直接覆髄やパーフォレーションリペア、根管充填が挙げられます。

直接覆髄と言うのは、歯の中にある神経が露出した際に何らかの材料でふさぎ、神経を保護する治療法です。今までは水酸化カルシウム製剤が使用されてきました。しかし、MTAセメントを使用した方が上手く行く事がわかり、現在ではこの治療法における第一選択(標準治療)となっています。水酸化カルシウムに取って代わったという事です。

パーフォレーションとは、歯の根の管に穴が開いてしまった状態を指します。これも、今まではスーパーボンド、EBAセメントなどが使用されていましたが、MTAセメントに置き変わっています。

根管充填とは根の中に封鎖材を詰める事なんですが、ここでもMTAは優位性があるとのことです。

これらに共通するのは、リペアする対象部分が象牙質と呼ばれる場所だという事です。即ち、象牙質の修復材です。

象牙質は水分が多い組織です。更に象牙質が破損している箇所は概ね出血や体液によって濡れています。濡れた環境で確実に硬化するセメントは存在しなかったのです。

また、効果反応中にわずかに体積が膨張する為に、封鎖性が高くなります。封鎖性の甘い材料は、その隙間から細菌の侵入を許し、感染の原因になります。

これらの性質に加え、高いPhを保ち続けることで抗菌能力が長く続きます。一度硬化して、しばらくしてから砕いたMTAのPhは高いままです。勿論最初の硬化物よりPhが下がっていますが、アルカリ傾向は示したままです。

これらの物性や臨床成績、基礎研究などの関連論文数は世界中から1993年から2014年までに約1550件の出版があり、これは他の材料と比較しても堅牢と言えるバックボーンです。ましてや先進国の中で日本しか行っていない3mix-mp法、ドックベストセメントなどとは比較にさえならない信頼性の高い医学的根拠を示しています。

MTAセメントの特徴をまとめると

1、生体親和性が非常に高い

2、硬化膨張する為に、封鎖性が高い

3、湿潤した環境でもスペック通りに硬化する

4、抗菌作用が長く、減弱が遅い

ざっと上げるとこんなところです。

生体親和性が高いという事は、神経組織や骨、粘膜に直接触れても問題を起こしにくいという事です。

効果膨張する為に封鎖性が高いという事は、細菌の侵入を防ぐ効果高いという事です。

濡れていても確実に硬化するという事は、濡れた環境でも高い封鎖性を発揮し、細菌の侵入を防ぐという事です。

抗菌作用があり長く続けば、2次的な汚染に対して抵抗力がある程度期待できると考えられます。

さて、ここで間違い易いのは、MTAで感染した神経を救うことが出来るという錯覚です。MTAでリペアできるのは象牙質であって、歯髄(神経)ではありません。健康な神経が感染して病気になることを防ぐことはできます。しかし、感染してしまった神経を直接救うことはできません。

これはMTAに限りませんが、感染した神経は救う方法がありません。従ってMTAを使用して直接覆髄を行う場合、象牙質の診断と神経の診断を分けて考える必要が有ります。特に神経の診断です。診断が間違っていれば治療は確実に失敗します。

これはMTAに限りません。例えば、胃潰瘍なのに、高血圧の薬飲んでも治りません。白血病なのに風薬飲んでも治りません。ヘルニアなのに抗生物質飲んでも治りません。(飛躍し過ぎの比喩かもしれませんが。)

歯髄炎(神経が感染性の炎症を起こした状態)なのにMTAで象牙質をガッツリ封鎖しただけでは治りません。この場合、現在の医学水準では神経を取り除いて感染の拡大を防ぎ、歯の寿命を延ばす事が最善と考えられています。神経を抜くと歯の寿命が短くなるのではありません。病気になったから寿命が短くなったのです。そして治療で少しでも寿命を延ばしているのが現状です。健康な歯と比較して病気になった歯の寿命が短いのは仕方のないことです。(しかし、神経を取る治療のレベルは確実に高い水準で行う必要が有ります。ラバーダム等の感染に対する配慮無しだと結構な確率で再感染します。)

また、神経の診断は最終的には治療中に判断せざるを得ない場合も多々あります。神経が露出した際に出血して来ますが、これが止められれば直接覆髄の成功率が上がります。虫歯になった組織の中から露出した神経は、比較的止血が困難で、成功率が下がります。これは治療しなければ判断できない事です。

パーフォレーションリペアや外科的歯内療法でも同じことが言えます。優れた材料ですが、生物学的原則から乖離した治療を行なうと確実に失敗します。感染源の確実な除去。細菌の侵入が起こらないような確実な封鎖。これが出来なければ何を使っても上手くいきません。

基本に忠実に治療を行った場合のみ、優れた材料はその恩恵を私達に与えてくれます。

 

 

最小限の侵襲による歯科治療(MID)

西暦1867年、我が年号においては慶応3年。

日本においては徳川幕府最後の将軍、徳川慶喜が大政奉還を決意。翌年王政復古の大号令。幕末~明治維新のクライマックス。

同じ頃、アメリカ人歯科医師Greene Vardiman Black(GVブラック)は歯科治療における重要な考えを持つに至りました。

虫歯は管理可能な病気である。と、言う事にです。言い換えると治療可能な病気である、或は予防可能な病気である。

それまでは歯を抜いていました。痛くなったら抜歯。それが治療によって抜かずに済むかも知れない。

またBlackは、清掃可能な虫歯の穴は歯ブラシなどで清潔に保つことが出来れば進行しない事に気が付きました。これも重要な発見です。清掃可能な虫歯は修復の必要が無いと言う事です。これは現在に至るまで変わりの無い生物学的原則です。

以上の事がわかったのは、繰り返しになりますが今から150年前の事です。その後、1900年初頭にBlackによる虫歯治療の為の教本が出版されました。その当時でさえ、歯を修復するよりも予防する方が望ましいと事が記載されています。これも現在に至るまで代わりの無い健康管理上の原則です。

上記の歴史によれば、虫歯の予防と疾病管理は実に100年以上前から唱えられており、(当たり前ですが)必要以上に治療することは無いのです。

現代では治療技術は向上し、昔からの生物学的原則に変化はありませんので、更に治療介入が減っていくのが自然です。予防の啓蒙と励行が充分であればです。また、疾病に関する正しい情報の教育が大切です。

1960年代に入って、スウェーデン人研究者Yngve Ericssonはフッ素化合物(モノフルオロリン酸ナトリウム)を歯磨き粉に添加し特許を取得しています。これは現在に至るまで、(医学的根拠のある)虫歯予防に効果的な物質として使用されています。1960~1980年代にはプラーク(デンタルバイオフィルム)が歯を溶かす原因である事実も明らかになりました。バクテリアによる破壊です。世界的に、フッ素入りの歯磨き粉を使用して歯ブラシでプラークを除去することが推奨されるようになりました。

そして虫歯は確実に減っています。しかし治療は?

清掃可能な穴の開いている虫歯。しかし、ブラッシングをしなければ、、、進んでしまいます。

清掃不可能な穴の開いている虫歯。いかにブラッシングを試みても進んでしまいます。

エナメル質だけに脱灰が見られる歯。ブラッシングをしなければ進んでしまいます。

他には砂糖の摂取制限フッ化物の応用など、小さなことの積み重ねで予防が可能です。

これらの判断を行った上で治療が必要と思われる虫歯だけを治療します。

最小限の侵襲による、と言うのは、歯を削らないと言う意味ではなく、上記の事も含めての話です。予防抜きに最小限度の削り方(当たり前)で治療をしても、最小限の侵襲とはなりません。虫歯になってしまう環境が改善されていないからです。

環境改善は生活習慣の改善です。

これを怠っているのに、なるべく削らない治療、なるべく抜かない治療、削らずに治る最先端治療、薬で治る治療、etc、、、、、医学的根拠など無し。ナンセンス!!

生物学的原則を守らなければ、なにやったって上手く行きません。

GVブラックから始めましたので、虫歯を対象にして記述しました。あ、いや、慶喜からでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

局所麻酔2 Local anesthesia2

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歯科に限らないのですが、麻酔薬を使用すると、その薬効によって感覚が無くなります。

1943年、N.LfgrenとB.Lundquistの二人のスウェーデン人化学者によるリドカインの発見は、カリオロジー(虫歯の研究)にとって歴史的な出来事でした。虫歯を取り除く際の痛み、これを堪えるのは簡単ではありません。リドカインはそのようなストレスを相当に減らし、画期的な発見とされています。

しかし、リドカインなどの麻酔薬を人体に奏功させる為には、体内にそれを入れる必要があります。

Injectionによるdelivery。

ここでが注射が必要になります。麻酔注射の方法は昔も今も変わりません。注射筒(シリンジ)に注射針を装着し、体内に流し込みます。

道具には進歩があります。注射筒が電動になり、麻酔薬を極めて遅い速度で注入が可能です。ゆっくり注入した方が痛くありません。機械のおかげで術者間の差が無くなりました。誰がやっても遅い速度で出来ます。

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針は極めて細くなりました。現在使用している物は0,26mmの物から0,3mmの物が一般的です。針が細い方が刺す時の痛みが少ないです。技術の進歩で細くすることが可能になりました。それでもおよそ0,3mm以下ならばいくら細くなっても痛みに差はないそうです。

同じ圧力で麻酔薬を注入した場合、針が細ければ細いほど、先端から出てくる薬液の圧力が強くなります。圧力が強ければ痛みやすいので、細い針の場合は更にゆっくりと麻酔薬を注入する必要が有ります。

現在販売されている針よりも飛躍的に細い針の場合、超々ゆっくり注入する必要が出て来てしまうので、非現実的かも知れません。また、細すぎると宿命的に強度が落ちます。細い針の難しいところは、強度を確保する事です。強度不足の針だと最悪の場合、刺した粘膜の中に折れ込んでしまい、細いが為に見つける事が困難なはずです。まあ何事もバランスが大切ですね。

他には表面麻酔。麻酔注射の前に粘膜の表面の知覚を鈍麻させるために使用します。その結果、注射の際に痛みが少なくなります。表面麻酔をしたからと言っても表面だけですから、いきなりズブリと刺すのではなく、ほんのわずかに刺し入れる程度で無ければなりません。そしてゆっくり注入。

粘膜の下に麻酔薬がある程度しみ込んできたら、針をゆっくり進めながら薬液をゆっくり注入していきます。

目的の刺入深度まで到達したら、必要な量を注入して終了です。

ゆっくりと言っても1時間かかるとかそうゆう話ではありません。分、秒単位です。

道具も良くなりましたが、時間かけるだけでも随分楽になります。

 

 

局所麻酔1 Local anesthesia1

img_3288歯科では概ね局所麻酔での処置が殆どです。この際使用されるのが局所麻酔薬です。通常は粘膜下に注射して麻酔効果を期待します。日本以外の先進国で虫歯の治療を全身麻酔で行うことは珍しくありませんが、日本では局所麻酔で行うことが多いです。

局所麻酔薬で最もよく使用されるのがキシロカインです。これは商品名で、一般名はリドカインと呼ばれます。1943年にスウェーデン人科学者のNils LofgrenとBengt Lundquistが発見しました。

歯科用キシロカインは主成分のリドカインに、エピネフリンという血管収縮薬を配合してあります。刺入点周囲の毛細血管を収縮させ血流を阻害します。その結果麻酔薬が周囲に流れていきづらく、少量でも効果が続き易くなります。

キシロカインは歴史が長い製品です。従って後発の類似製品も多く、それなりのシェアを持っています。代表的な物としてはキシレステシンオーラエピリド等です。多少成分比が異なりますが、概ね同じ用途で使用します。問題になる事はほとんどありませんが成分比の違いは認識しておく必要があります。

他にはシタネストーオクタプレシンを使用することが有ります。一般名はプロピトカイン(プリロカイン)。プロピトカインリドカインよりも効き目が少し劣ります。また、歯科用キシロカインと同様に血管収縮薬が配合されています。こちらはフェリプレシンという薬剤で、エピネフリンよりも作用が弱いです。その代り、エピネフリンの使用し難い症例に使用できる場合が有ります。例えば高血圧の患者さん。

麻酔薬の成分構成は、麻酔薬と血管収縮薬の組み合わせだけでなく、浸透圧調整の為の等張化剤やPH調整剤、酸化防止剤が含まれています。

例外的に麻酔薬成分だけの製品としては、スキャンドネスト(メピバカイン)が有ります。メピバカインの薬効はリドカインと近似しているにもかかわらず、血管収縮薬無添加である為、効きがあまり良くありません。

結果、シタネストスキャンドネストキシロカイン製剤より覚醒が早いので、小さな虫歯の処置などには使いやすいです。治療が終わっても麻酔がず~っと切れないのはなんとなく不便ですよね。そんな場合もシタネストの方が楽だと思います。逆に大きな虫歯の治療や長い治療、外科処置にはあまり向いていません。

また、どんな薬剤でも万能ではありません。キシロカインの場合、高血圧狭心症糖尿病脳梗塞バセドウ病などでは慎重に使用する必要があります。

シタネストの場合はそれらの疾患を持つ患者さんには使用し易いですが、先天性メトヘモグロビン血症重症貧血などの患者さんにはリスクが高い薬剤となります

従って、麻酔一本でも、患者さんの病歴を把握していないと危険ですね。問診票の記載や病歴の聞き取りは患者さんの安全の為に大切な事です。